生成AI研修に使える代表的な助成金は、厚生労働省の「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」です。中小企業の場合、訓練経費の75%と、訓練中の賃金1人1時間あたり1,000円が助成されます。 対象となるのは、実訓練時間10時間以上のOFF-JT(通常業務を離れて行う研修)で、DX化に伴い必要となる知識・技能を習得させるもの。生成AIの業務活用研修は、この「DX化に関連する業務に従事させる上で必要な訓練」として設計できるケースが多くあります。
ただし、この制度は令和4年度から令和8年度までの時限措置です。パンフレット上も「令和8年度末までの時限措置」と明記されており、現時点では2027年3月末で終了予定。使うなら今年度が最後のタイミングになります。
本記事では、制度の全体像と助成額を厚労省の一次資料で確認したうえで、「結局うちはいくら戻ってくるのか」という計算と、実際に申請してみないと分からない実務上のつまずきどころまで解説します。
注意:本記事の数値は、厚生労働省が公開する詳細版パンフレット(PL080514開企03/令和8年5月14日以降に提出された職業訓練実施計画届に基づく訓練が対象)に基づく、2026年7月時点の内容です。助成金制度は毎年度改正されます。申請にあたっては必ず最新の要領・パンフレットをご確認のうえ、管轄の都道府県労働局にご相談ください。
結論:生成AI研修に使える助成金と、実際に戻ってくる金額の目安

まず、最も現実的なケースで試算します。中小企業・受講者10名・実訓練時間20時間・外部の教育訓練機関へ委託(研修費60万円) という条件で、事業展開等リスキリング支援コースを使った場合です。
| 項目 | 計算 | 助成額 |
|---|---|---|
| 経費助成 | 研修費60万円 × 75% | 45万円 |
| 賃金助成 | 1,000円 × 20時間 × 10名 | 20万円 |
| 合計 | — | 65万円 |
研修費60万円に対して経費助成が45万円ですから、実質負担は15万円。これに加えて、研修を受けさせている間の賃金についても20万円が戻ってきます。
ここで注意したいのは、経費助成には1人1訓練あたりの限度額がある点です。今回は実訓練時間20時間なので「10時間以上100時間未満」の区分にあたり、限度額は1人あたり30万円。10名なら枠は300万円分あるので、45万円は問題なく収まります。限度額が効いてくるのは、少人数に高額な研修を受けさせるケースです。
使える助成金制度の全体像

生成AI研修に使える可能性がある人材開発支援助成金のコースは、主に次の2つです。どちらを使うかで助成率が大きく変わります。
① 事業展開等リスキリング支援コース(本命)
DX化・事業展開に伴う訓練が対象。経費助成75%・賃金助成1,000円/時間と、人材開発支援助成金のなかでも最も手厚い水準です。生成AI活用研修は、社内のDX推進に必要な知識・技能の習得と位置づけられるため、多くの企業がこのコースに該当します。
対象となるのは、次の①〜③のいずれかに当てはまる訓練です。
- ① 事業展開:新分野進出・業種転換など。訓練開始日から3年以内に実施予定、または6か月前までに実施したものに限る
- ② DX・GX化:企業内のDX化・カーボンニュートラル化に関連する業務に必要な知識・技能
- ③ 人事・人材育成計画に基づく訓練:3年以内に従事予定の職務に必要な知識・技能
生成AI研修で最も使いやすいのは②です。①を選ぶ場合は「どんな事業展開をするのか」を計画書で具体的に書く必要があり、抽象的な記述では通りません。
② 人材育成支援コース(該当しない場合の受け皿)
DX化・事業展開との関連づけが難しい場合の選択肢。ただし助成率は下がります。
| 項目 | リスキリング支援コース | 人材育成支援コース(人材育成訓練) |
|---|---|---|
| 経費助成率(中小) | 75% | 45%(有期契約労働者等は70%) |
| 賃金助成(中小・1人1時間) | 1,000円 | 800円 |
| 1事業所1年度の支給限度額 | 1億円 | 1,000万円 |
| 制度の期限 | 令和8年度末までの時限措置 | 期限の定めなし |
※( )内は中小企業以外(大企業)の数値ではありません。大企業の場合、リスキリング支援コースは経費助成60%・賃金助成500円、人材育成訓練は経費助成30%・賃金助成400円となります。
なお人材育成支援コースには、訓練修了後に受講者の賃金を5%以上引き上げるなどの「賃金要件」を満たすと助成率が15%加算される仕組みがあります。リスキリング支援コースにはこの加算はありません(もともと75%と高率のため)。
助成率・上限額の詳細(2026年7月時点)
事業展開等リスキリング支援コースの数値を整理します。すべて厚労省の詳細版パンフレットに基づく数値です。
| 項目 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|
| 経費助成率 | 75% | 60% |
| 賃金助成(1人1時間) | 1,000円 | 500円 |
| 設備投資加算(1コースの導入費用あたり) | 50% | — |
経費助成の限度額(1人1訓練あたり) は、実訓練時間数によって3段階に分かれます。
| 実訓練時間数 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|
| 10時間以上100時間未満 | 30万円 | 20万円 |
| 100時間以上200時間未満 | 40万円 | 25万円 |
| 200時間以上 | 50万円 | 30万円 |
このほかの上限・制限は次のとおりです。
- eラーニング・通信制による訓練:一律で中小企業15万円・大企業10万円(時間数の区分にかかわらず)
- 定額制サービス(サブスク型研修):1人1月あたり2万円
- 賃金助成の対象時間:1人1訓練あたり1,200時間が上限(専門実践教育訓練は1,600時間)
- 受講回数:1労働者につき1年度で3回まで
- 1事業所の支給額:1年度あたり1億円まで
- 設備投資加算:支給対象労働者1人につき15万円、10人以上の場合は人数にかかわらず150万円が限度
申請の流れとスケジュール感

助成金は「研修をやってから申請する」ものではありません。必ず研修を始める前に計画届を出す必要があります。ここを誤解して手遅れになるケースが最も多い。
| ステップ | 内容 | 期限 |
|---|---|---|
| 1. 事前準備 | 職業能力開発推進者の選任、事業内職業能力開発計画の策定・周知 | 計画届の提出日まで |
| 2. 計画届の提出 | 職業訓練実施計画届(様式第1-1号)等を労働局へ | 訓練開始日の6か月前〜1か月前 |
| 3. 訓練の実施 | 計画どおりに研修を実施。費用は支給申請までに全額支払い済みにする | — |
| 4. 支給申請 | 支給申請書(様式第4-2号)等を労働局へ | 訓練終了日の翌日から2か月以内 |
| 5. 支給決定 | 労働局の審査を経て支給・不支給が決定 | 審査には時間を要する |
実務的に効いてくるのは、逆算するとかなり早い段階で動き出す必要があるという点です。8月25日に研修を始めたいなら、計画届の期限は7月25日頃。そこから逆算して、研修内容の確定・カリキュラムの作成・対象者の確定・社内規程の整備を終わらせておかなければなりません。研修会社を探し始めるのが7月では、すでに間に合わない可能性があります。
なお提出期限が土日祝にあたる場合は翌開庁日が期限となります。また、計画届を提出したこと自体は支給を保証するものではなく、審査は支給申請後に一括して行われます。
つまずきやすいポイント(実務目線)

ここからが本題です。制度の概要は調べれば出てきますが、実際に書類を作って提出してみないと分からない落とし穴があります。私たちが申請支援の現場で繰り返し遭遇してきたものを挙げます。
1. 「事業内訓練」と「事業外訓練」の取り違え
計画届では、訓練を事業内訓練と事業外訓練のどちらかで申告します。ここで多くの方が誤解するのが、区分の基準です。
判断基準は「どこでやるか」「誰が講師か」ではなく、「誰が企画・主催したか」です。 パンフレットにも「部外講師の活用や社外の場所で行われる訓練等であっても、申請事業主が企画し主催したものは事業内訓練に該当」と明記されています。
つまり、外部の研修会社の講師を招いても、カリキュラムを自社が企画し主催する形であれば事業内訓練になり得ます。逆に、教育訓練機関が既に用意している講座に社員を参加させ、受講料を事業主が負担する形は事業外訓練です。
よくある差し戻しは、この区分を場所や講師で判断してしまい、様式内の他の欄(委託先の記載など)と矛盾するケースです。自社の研修がどちらに当たるかは、企画・主催の実態で判断し、様式全体で整合させてください。判断に迷う場合は計画届の提出前に労働局へ確認するのが確実です。
2. 受講予定人数と対象労働者名簿の人数がズレる
計画届(様式第1-1号)に書く受講予定人数と、対象労働者一覧(様式第3-1号)の名簿人数は一致していなければなりません。計画届を出したあとに退職者や異動が出ると、ここがズレます。変更が生じたら変更届が必要です。
3. 役員・社長は対象にならない
対象労働者は雇用保険被保険者に限られます。「社長も一緒に受けたい」というご要望は多いのですが、代表者や通常の役員は被保険者ではないため助成の対象外です。受講いただくこと自体は問題ありませんが、助成額の計算には含められません。
ただし判断基準はあくまで雇用保険の被保険者かどうかであり、「役員だから一律に除外」ではありません。役員でありながら従業員としての身分を併せ持つ兼務役員で、雇用保険被保険者となっている場合は対象になり得ます。該当しそうな方がいる場合は、被保険者資格の実態を確認してください。
4. 受講率80%未満で不支給になる
支給申請時に提出する様式第8-1号(OFF-JT実施状況報告書)では、実訓練時間に対する受講時間の割合=受講率を記載します。この受講率が80%を下回ると不支給です。
たとえば全12回の研修で、ある受講者が2回欠席した場合。欠席回も「訓練自体は実施された」ので実訓練時間には計上され、受講時間と賃金助成対象時間が0になります。結果、10÷12=83%で要件は満たします。しかし3回欠席すると9÷12=75%となり、その受講者は不支給。欠席が2回を超えそうな時点でアラートを上げる運用が必要です。
5. eラーニング・定額制サービスは賃金助成の対象外
eラーニングによる訓練、通信制による訓練、定額制サービスによる訓練は経費助成のみで、賃金助成はつきません。オンラインで実施する場合でも、講師と受講者が同時にやりとりする同時双方向型であれば通常の訓練として扱われ、賃金助成の対象になります。「オンライン=eラーニング」ではないので、実施方法の申告には注意が必要です。
6. 実訓練時間10時間のカウントが思ったより厳しい
10時間以上という要件は、単純に研修の拘束時間で数えるわけではありません。
- 昼食を伴う休憩時間は含められない(総訓練時間数にも入らない)
- 移動時間は含められない
- 小休止(1回30分以下)は1日あたり累計60分まで含められる
- 開講式・閉講式・オリエンテーションは1計画届あたり累計60分まで
さらに、後述する「対象とならないOFF-JT」がカリキュラムの一部に含まれる場合、その時間を除外して10時間以上である必要があります。「1日6時間×2日で12時間だから大丈夫」と思っていたら、休憩と対象外パートを除くと9時間しかなかった、というのは実際に起こります。
7. 会社情報の誤記は意外なほど多い
法人番号、雇用保険適用事業所番号、労働保険番号、所在地、電話番号。複数の様式に同じ情報を書くため、1桁違いや旧住所のままという誤記が混入しやすい箇所です。提出前に、全様式間と公的データベースで突き合わせて確認することをおすすめします。
8. AIツールの導入費・ライセンス費は経費助成の対象外
助成されるのはあくまで訓練の経費です。生成AIツールの利用料やライセンス費用は経費助成の対象になりません。ただし、リスキリング支援コースには別枠で設備投資加算(中小企業は導入費用の50%)があり、要件を満たせば設備導入に対する助成を受けられます。経費助成と設備投資加算は別物として整理してください。
対象になる研修/ならない研修の線引き

生成AI研修を設計するうえで、最も注意が必要なのがこの線引きです。厚労省のパンフレットには「対象とならないOFF-JT」が具体的に列挙されており、カリキュラムの一部に含まれる場合もその時間は対象外になります。
| 区分 | 具体例 |
|---|---|
| 対象になりやすい | 業務プロセスをAIで再設計するための知識・技能/自社の財務諸表を用いて分析手法を学ぶ/DX推進に必要な専門的知識の習得 |
| 対象にならない | 接遇・マナー講習など職業人として共通の基礎スキル/意識改革研修・モラール向上研修/管理職研修・リーダーシップ研修(人事・人材育成計画に基づく訓練の場合)/コンサルタントによる経営改善の指導/自社の業務で用いる機器・端末等の操作説明/自社製品・サービスの説明/時局講演会・見学会・ビジネス交流会 |
生成AI研修で特に気をつけるべきは、「単に既存のアプリやシステムを購入してその操作方法を習得する場合や、コンサルタントによる指導は対象にならない」という規定です。
つまり「ChatGPTの使い方を教わるだけ」の研修は、対象外と判断されるリスクがあります。同様に「単にデジタル機器を使用して文章・数値の入力や、書式・レイアウトの変更程度の初歩的な操作を行う内容のみの訓練」も対象外と明記されています。
一方で、パンフレットには「企業内でDX・GX化を進める上で必要となる知識及び技能を習得させるための訓練等である場合は除く」という例外規定もあります。ツールの操作に留まらず、自社のDX推進に必要な専門的な知識・技能の習得としてカリキュラムを設計できるかどうかが分かれ目です。
また、業務改善指導や事業活動における成果物の創出につながる内容も対象外とされます。「自社のCO2排出量の数字を使って必要な知識や手法を学ぶ訓練は対象だが、自社のCO2削減計画そのものを策定する場合は対象外」という例が示されており、研修とコンサルティングの境界を意識したカリキュラム設計が求められます。
よくある質問
Q. 助成金は必ず受け取れますか?
いいえ。計画届を提出したことをもって支給が確約されるものではありません。審査は支給申請後に一括して行われ、要件を満たさないと判断されれば不支給となります。受講率80%未満、対象外の訓練内容、書類の不備など、不支給になる要因は複数あります。
Q. 研修を先に実施してから申請できますか?
できません。計画届は訓練開始日の1か月前までに提出する必要があります。すでに始めてしまった研修は対象になりません。
なお、新たに雇い入れた労働者のみを対象とする訓練で雇入れ後1か月以内に行う場合や、天災など事業主の責めによらない事由がある場合には、訓練開始日の前日までの提出が認められる例外があります。該当しそうな場合は労働局にご確認ください。
Q. オンライン研修でも対象になりますか?
なります。講師と受講者が同時にやりとりする同時双方向型であれば、通常の訓練として賃金助成の対象にもなります。録画配信型のeラーニングの場合は経費助成のみとなり、限度額も一律15万円(中小企業)です。
Q. 助成金はいつ入金されますか?
支給申請後、労働局の審査を経て支給決定されます。パンフレットにも「審査には時間を要します」と記載されており、研修費用は一旦全額を自社で立て替える前提で資金計画を立ててください。
Q. 複数の助成金を併用できますか?
同一の事由(同一の訓練受講、経費、賃金等)について複数の助成制度を利用する場合、併給できないことがあります。自治体独自の補助金などと組み合わせる場合は、それぞれの制度を所管する労働局・自治体にご確認ください。
Q. この制度はいつまで使えますか?
事業展開等リスキリング支援コースは令和4年度から令和8年度までの期間限定で創設された制度で、パンフレットにも「令和8年度末までの時限措置」と明記されています。現時点では2027年3月末で終了予定です。
まとめ
生成AI研修は、人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)を使うことで、中小企業なら訓練経費の75%+賃金1時間1,000円の助成を受けられます。ただし、
- 計画届は訓練開始日の1か月前まで(逆算するとかなり早い)
- 実訓練時間10時間以上(休憩・対象外パートを除いて)
- 受講率80%以上を全員が維持する必要がある
- ツールの操作方法だけの研修は対象外と判断されうる
といった実務上のハードルがあり、制度を知っているだけでは通りません。カリキュラムの設計段階から助成金の要件を織り込んでおくことが、確実に受給するための最大のポイントです。
弊社では、生成AI研修の実施とあわせて、助成金の要件を満たすカリキュラム設計・計画届の作成支援・支給申請までの一連のサポートを行っており、支援実績があります。「自社は対象になるのか」「いくら戻ってくるのか」といった初期段階のご相談から承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
※本記事は2026年7月20日時点の公開情報(厚生労働省 人材開発支援助成金 詳細版パンフレット PL080514開企03)に基づいて作成しています。制度内容は改正される場合があります。実際の申請にあたっては、必ず最新の支給要領をご確認いただき、詳細は管轄の都道府県労働局にご確認ください。
