音声入力による介護記録の下書き作成
介助の直後にスマートフォンへ話しかけて音声で残し、書き起こしをAIに渡して利用者ごと・時系列の記録文に整形させます。整形結果は職員が事実を確認してから記録ソフトへ反映します。

- 対象部署
- 介護部門(ユニットリーダー・介護職員)
- 使う技術
- スマートフォン標準の音声入力(iOS の音声入力 / Android の Gboard 音声入力) / 音声書き起こしアプリ(Notta、または OpenAI Whisper をローカル実行する構成) / ChatGPT または Claude による書き起こしテキストの記録文への整形 / 施設内の用語辞書(Googleスプレッドシートで管理し、毎回プロンプトに添付) / 既存の介護記録ソフト(整形後のテキストを貼り付ける先として使用)
- 必要な入力データ
- 介助直後に吹き込んだ音声の書き起こしテキスト(.txt) / 施設内の用語辞書(.csv・薬剤名、福祉用具名、施設内の言い回し) / 利用者の記号対応表(氏名を記号に置き換えるための表・施設内のみで保管) / 記録項目の一覧(食事量、水分量、排泄、バイタル、特記事項などの並び順を定義したもの)
Before / After
人がやる場合と、AIを使った場合
効果だけを並べても判断できません。まず「今どうやっているか」を具体的に書きます。タブを切り替えて読み比べてください。
日中は記録用紙を持ち歩き、介助のたびに手書きでメモします。食事量は主食と副食を10段階、水分量はミリリットル、排泄は回数と性状、バイタルは体温と血圧と脈拍を書きます。夜勤帯は巡視のたびに用紙へ書き込み、休憩の前後でまとめます。勤務終了前の30分から1時間で、手書きメモを介護記録ソフトへ入力し直します。入力中に判読できない字が出ると、記憶をたどって書き直します。申し送りは口頭で伝え、聞いた次勤務の職員がもう一度メモに書きます。つまり同じ内容を、手書き、ソフト入力、申し送りメモの3回書いている状態です。入力が終わらない日は、記録のためだけに残ります。
介助が終わった直後に、スマートフォンへ話しかけて音声で残します。話す順番は施設で決めた型に沿わせます。たとえば「利用者記号、時刻、実施した介助、数値、気づいたこと」の順です。勤務終了前に、その勤務帯の書き起こしテキストをまとめてAIに渡し、利用者ごと・時系列の記録文に整形させます。整形結果を介護記録ソフトへ貼り付ける前に、職員が1件ずつ内容を確認します。人に残るのは、事実の確認と判断です。数値の読み違い、利用者の取り違え、いつもと違う様子を異常と判断して看護職員へ上げるかどうかは、その場にいた職員でなければ決められません。介護記録はサービス提供の根拠となる書類で、運営基準上も整備と保存が求められます。AIが作った文をそのまま確定する運用は行いません。
| 比較する軸 | 人がやる場合 | AIを使った場合 |
|---|---|---|
| 所要時間 | 1勤務あたり、手書きのメモに30〜40分、勤務終了前のソフト入力に30〜60分かかります。 | 音声の吹き込みは1件20〜40秒で介助の合間に終わり、勤務終了前の整形と確認が15〜25分です(自社での実測が必要です)。 |
| 関わる人数 | 記録する職員1名に加え、入力が終わらない日は手伝うリーダー1名と、申し送りを書き写す次勤務の職員1名が関わります。 | 記録する職員1名です。リーダーは抜き取りで確認し、申し送りは整形済みテキストをそのまま共有します。 |
| 起きるミス | 手書きの判読違い、再入力時の数値の転記ミス、書き忘れ、申し送り漏れが起きます。 | 音声認識が薬剤名や固有名詞を誤変換する、AIが吹き込んでいない内容を推測で補う、確認せずに貼り付ける、といった誤りが起きます。 |
| 必要なスキル | 記録の書き方への慣れと、手早く文章にまとめる力が要ります。 | 決めた型で話す習慣と、AIの出力を事実と照合して直す確認力が要ります。 |
効果の見込み
介護分野の媒体では、インカム型の音声通話アプリと音声入力を記録作成に組み合わせた特別養護老人ホームで、記録時間が889分から456分へおよそ49パーセント減ったと報告されています(媒体報告値・2026年2月掲載)。ただし削減幅は、記録項目の数、話す型の定着度、用語辞書の整備状況で大きく変わります。自社では、導入前に同じ勤務帯の記録時間を1週間ストップウォッチで計測し、導入後も同じ条件で計測して比較してください(要実測)。
Steps
実際にやること
読んだ方がそのまま試せる粒度で書いています。出し惜しみはしません。各手順の説明とプロンプト例は「くわしく見る」を開くと読めます。
- 01
何をどの順で話すか、型を決める
くわしく見る
最初にやるのはアプリの導入ではなく、話す型を決めることです。既存の介護記録ソフトの入力項目を書き出し、その並び順に合わせて型を作ります。たとえば「利用者記号、時刻、介助内容、数値、様子」の5つです。型が決まっていない状態で吹き込むと、AIが整形するときに項目が抜けます。型はA6サイズの紙に印刷し、記録端末のケースに挟んでおきます。
- 02
利用者名を記号に置き換える運用を先に決める
くわしく見る
音声で氏名をそのまま吹き込み、外部サービスへ送る運用は避けます。利用者ごとに U-101 のような記号を割り当て、記号と氏名の対応表は施設内のパソコンだけで管理します。吹き込むときも記号で話します。記録ソフトへ貼り付ける段階で、職員が記号を氏名に戻します。この一手間を最初に決めておくと、個人情報の扱いについて家族や行政から問われたときに説明できます。
- 03
施設内の用語辞書を作る
くわしく見る
音声認識は、薬剤名、福祉用具名、施設内の略語を高い確率で誤変換します。誤変換の実例を集め、「誤変換された文字列」と「正しい表記」の対応表をスプレッドシートで作ります。最初は20行程度から始め、使いながら足していきます。この表をプロンプトに毎回添付することで、AIが整形の段階で直してくれます。辞書がないまま精度が出ないと判断するのは早すぎます。
- 04
書き起こしを記録文へ整形するプロンプトを作る
くわしく見る
書き起こしテキストと用語辞書を一緒にAIへ渡します。出力の形式を必ず指定します。形式を指定しないと文章で返ってきて、記録ソフトへの貼り付けと確認に手間がかかります。表形式で受け取り、確認欄を空けておくのが実務上は扱いやすい形です。
プロンプト例
あなたは介護記録の整形を担当します。以下の【用語辞書】と【書き起こし】をもとに、介護記録の下書きを表形式で作ってください。 出力列:利用者記号 / 時刻 / 区分(食事・水分・排泄・バイタル・入浴・移乗・特記) / 記録文 / 数値 / 元の発話(引用) / 要確認 条件: - 書き起こしに無い内容は絶対に補わないでください。推測が必要な箇所は記録文を空欄にし、要確認に「発話不明瞭」と書いてください - 用語辞書に載っている誤変換は正しい表記へ直してください。直した箇所は要確認に「辞書適用」と書いてください - 記録文は「です・ます」ではなく、介護記録の常体(〜した、〜がみられた)で書いてください - 利用者記号が聞き取れない発話は、利用者記号を「不明」とし、要確認に「利用者未特定」と書いてください - 時刻は24時間表記に統一してください 【用語辞書】 (スプレッドシートをコピーして貼り付け) 【書き起こし】 (その勤務帯の書き起こしテキストを貼り付け)
- 05
確認の手順を決め、誰が確認したかを残す
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整形結果をそのまま記録ソフトへ貼り付けない運用にします。確認するのは3点あります。数値が吹き込んだとおりか、利用者記号の取り違えがないか、そして要確認欄に印が付いた行が解消されているかです。確認した職員の名前を記録ソフトの入力者として残します。後日、家族や行政から記録の根拠を問われたときに、誰が確定したかを説明できる状態にします。
- 06
異常の判断だけは別の手順に切り出す
くわしく見る
いつもと違う様子を看護職員へ上げるかどうかは、記録の整形とは別の判断です。AIに「異常かどうか」を判定させる運用は行いません。代わりに、吹き込むときに「気になった」と一言添える約束にし、整形時にその行へ印を付けさせます。印が付いた行はリーダーが必ず目を通します。判断そのものは人が行い、AIは見落としを防ぐ印付けだけを担当します。
プロンプト例
以下の記録下書きから、次のいずれかに当てはまる行だけを抜き出してください。判定はせず、抜き出しと理由の記載だけを行ってください。 抽出条件: - 発話に「気になった」「いつもと違う」「初めて」という語が含まれる行 - 体温が37.5度以上、または収縮期血圧が90未満もしくは160以上の数値がある行 - 食事量が主食副食ともに3割以下の行 - 転倒、打撲、皮膚剥離、嘔吐、けいれんに関する語が含まれる行 出力列:利用者記号 / 時刻 / 該当条件 / 元の記録文(そのまま引用) 注意:医学的な判断や受診の要否は書かないでください。抜き出しのみを行ってください。
- 07
1ユニット2週間で試し、型と辞書を直す
くわしく見る
全ユニットで一斉に始めません。1ユニットの日勤帯だけで2週間試します。毎日の終わりに、要確認欄が付いた行を集め、原因が型なのか辞書なのかを切り分けます。型が原因なら話す順番を直し、辞書が原因なら行を足します。2週間で要確認の件数が半分以下になれば、夜勤帯と他ユニットへ広げます。減らない場合は、話す型が現場の動きと合っていないので、型の設計に戻ります。
Sample Data
この事例で使うサンプルデータ
実際に手を動かして試せるよう、サンプルを用意しています。すべて架空のデータです。お客様の実データは一切使用していません。
一式をまとめた形は、業界別レポートに同梱してお渡ししています。
Pitfalls
つまずきやすい点
精度が出ないときにどこを見るか。ここが分かるかどうかで、定着するかが決まります。見出しを開くと、確かめる箇所が読めます。
利用者の氏名をそのまま音声で吹き込んでしまう
AIが吹き込んでいない内容を補って書いてしまう
誤変換を確認せずに記録ソフトへ貼り付ける
記録の保存要件を確認しないまま運用を変える
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