医療用医薬品の電子添文の改訂差分抽出と新旧対照表の作成
改訂前後の電子添文から項番単位で差分を抽出し、新旧対照表の下書きと、受領した改訂指示との突合結果を作ります。規制上の判定は発注元の製薬会社が行います。

- 対象部署
- 制作部・医薬関連資材の校閲担当
- 使う技術
- 電子添文XMLからのテキスト抽出(Python標準のXMLパーサ) / Python difflib による項番単位の差分抽出 / Claude の長文コンテキストでの新旧対照表の下書き生成 / Googleスプレッドシートでの差分レビュー記録
- 必要な入力データ
- 改訂前の電子添文(PMDAが公開しているXML、またはそこから書き出したテキスト) / 改訂後の電子添文の案(製薬会社から受領するXMLまたはテキスト) / 製薬会社から受領した改訂指示の文面(テキスト) / 社内の表現ルール(使用可能な用語、記載順序の規定)
Before / After
人がやる場合と、AIを使った場合
効果だけを並べても判断できません。まず「今どうやっているか」を具体的に書きます。タブを切り替えて読み比べてください。
医療用医薬品の添付文書は2021年8月施行の改正薬機法で電子化され、2023年8月から電子添文の提供が本則になりました。印刷会社は、その内容を反映する製品情報概要や患者向け資材、外箱の法定表示を刷るため、改訂のたびに新旧を照合します。製薬会社から改訂指示を受けた印刷会社の校閲担当が、改訂前後の電子添文をプリントします。項番ごとに並べ、1行ずつ目で照合します。差分を見つけるたび、新旧対照表のExcelに手で書き写します。「改訂前」列に元の文、「改訂後」列に新しい文を入力し、「改訂理由」列には製薬会社から示された理由を転記します。20ページ相当の内容なら、この作成だけで半日から1日かかります。作成後、別の担当者が同じ作業を再度行って照合します。実際に起きているのは、句読点1つの違いを対照表に書き漏らすことです。もう1つは、改訂指示にあった項目のうち1つが改訂案に反映されていないのに、対照表上は完了扱いになる例です。
改訂前後の電子添文をスクリプトに渡すと、項番単位の差分が出ます。差分は「項番・項目名・改訂前・改訂後・変更の種類」の表になります。この表をもとに、AIが新旧対照表の下書きを作ります。改訂指示の各項目が差分の中に現れているかの突合結果も出ます。人に残るのは、差分の抜けを検出して製薬会社の薬事担当へ提示することと、社内の表現ルールへの適合確認です。改訂理由の記載と、規制上の妥当性の最終判定は、製造販売業者である発注元が行います。印刷会社側で理由を書き起こすことはしません。AIの出力はあくまで下書きであり、そのまま提出する運用は行いません。
| 比較する軸 | 人がやる場合 | AIを使った場合 |
|---|---|---|
| 所要時間 | (想定)20ページ相当の改訂で、対照表の作成に半日〜1日かかります。 | 差分の抽出と下書きの生成が5分、校閲担当の検証が2〜3時間です(自社での実測が必要です)。 |
| 関わる人数 | 校閲担当1名が作成し、別の担当1名が同じ作業をやり直して照合する二重作業になります。 | 校閲担当1名が下書きを検証し、確認者1名が差分一覧と改訂指示を突き合わせます。 |
| 起きるミス | 句読点や助詞の変更を対照表に書き漏らしたり、指示項目の未反映に気づかなかったりします。 | 項番の区切り判定を誤って差分がまとまらないことがあります。また、AIが改訂理由を推測で埋めることもあります。 |
| 必要なスキル | 文書構造の理解と、長時間の目視照合に耐える集中力が要ります。 | 差分の粒度を設計する力と、電子添文の項番構成を読み解く力が要ります。 |
効果の見込み
電子添文の改訂差分チェックについて、印刷会社側の工数削減を示す信頼できる公表値は確認できませんでした。要実測です。直近の改訂案件3件について、対照表作成にかかった実時間と、二重照合で見つかった書き漏れの件数を記録してください。導入後に同じ指標で比較します。時間短縮より、書き漏れ件数の変化を重視してください。
Steps
実際にやること
読んだ方がそのまま試せる粒度で書いています。出し惜しみはしません。各手順の説明とプロンプト例は「くわしく見る」を開くと読めます。
- 01
項番の区切り方をルールとして決める
くわしく見る
差分の質は、比較の単位で決まります。文書全体を1つの塊として比較すると、差分が読めません。医療用医薬品の電子添文は、2017年6月の通知に基づき2019年4月1日から適用されている記載要領で、項番が定められています。「4. 効能又は効果」「6. 用法及び用量」「8. 重要な基本的注意」「9. 特定の背景を有する患者に関する注意」「10. 相互作用」「11. 副作用」「16. 薬物動態」「20. 取扱い上の注意」のように番号が付きます。この項番を区切りとして分割し、項番ごとに比較します。9.1、9.2のような中項目まで分けるかどうかを先に決め、定義をテキストで書き出してください。1点、古い資料を流用しないでください。旧記載要領にあった「慎重投与」「原則禁忌」の項目は廃止され、内容は「9. 特定の背景を有する患者に関する注意」へ移っています。経過措置も2024年3月末で終了しています。
- 02
項番単位の差分抽出スクリプトをAIに書かせる
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項番に分けてから比較すること、変更の種類を分類することの2点を明示します。規制文書では、内容の変更と表記だけの変更を分けて扱う必要があるためです。電子添文はXMLで公開されているため、PDFから起こすよりXMLを直接読むほうが項番の取り違えが起きません。
プロンプト例
Pythonで、2つの電子添文の差分を項番単位で抽出するスクリプトを書いてください。 入力:before.xml と after.xml(電子添文のXML。テキストで受け取った場合は before.txt / after.txt も読めるようにする) 処理: 1. 項番(「4.」「9.1」のような番号)と項目名で分割する。番号の正規表現は引数で指定できるようにする 2. 項番ごとに文単位(句点で区切る)で比較する 3. 差分を「項番 / 項目名 / 文番号 / 改訂前 / 改訂後 / 変更の種類」のCSVで出力する 変更の種類は次の4つに分類してください: - 追加(改訂前に対応する文がない) - 削除(改訂後に対応する文がない) - 変更(文の内容が変わった) - 表記のみ(句読点・送り仮名・全角半角だけが変わった) 条件: - 内容の良し悪しは一切判定しないでください - 項番の対応づけができなかった場合は、そのまま「対応項番なし」として出力してください - 項番が新設された場合(改訂前に存在しない番号)は、その旨が分かるように出力してください - 日本語コメントを1行ずつ入れてください
- 03
改訂指示との突合表を作る
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差分を出すだけでは足りません。受領した改訂指示の各項目が、差分の中に実際に現れているかを確認します。スプレッドシートに「指示番号/指示内容/該当する差分行/反映状況(反映済/未反映/判断保留)/確認者」の5列を作り、指示の側から差分を探す形にします。差分の側からだけ見ると、未反映が見えません。
- 04
新旧対照表の下書きをAIに作らせる
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差分CSVを渡し、対照表の形に整えさせます。改訂理由は絶対に埋めさせないことが重要です。理由の記載は製造販売業者である発注元の判断であり、推測が入ると文書の信頼性が失われます。
プロンプト例
以下は、電子添文の改訂前後から抽出した差分の一覧です。新旧対照表の下書きを表形式で作ってください。 出力列:通し番号 / 項番と項目名 / 改訂前(原文をそのまま)/ 改訂後(原文をそのまま)/ 変更の種類 / 改訂理由 必ず守ること: - 改訂前と改訂後の文は、一字一句そのまま転記してください。要約や整形をしないでください - 「改訂理由」の列は必ず空欄にしてください。この欄は発注元の製薬会社が記載します。推測で埋めないでください - 「表記のみ」の変更も省略せず、すべて行として出してください - 差分に含まれない内容を追加しないでください 【差分一覧】 (CSVを貼り付け)
- 05
表現ルールへの適合を別プロンプトで確認する
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差分抽出とは分けて実行します。改訂後の文が社内の表現規定に合っているかを、候補として挙げさせます。ここでも判定はさせません。
プロンプト例
以下の【表現ルール】に照らして、【改訂後の文】の中で確認が必要な箇所を挙げてください。 出力列:該当箇所(原文引用)/ 抵触する可能性のあるルール番号 / 懸念の内容 必ず守ること: - 適合か不適合かの判定はしないでください。「確認が必要な候補」として挙げるだけにしてください - ルールに該当しない箇所は挙げないでください - 原文は引用のみとし、書き換え案を出さないでください 【表現ルール】 (ルール一覧を貼り付け) 【改訂後の文】 (改訂後の該当章を貼り付け)
- 06
校閲担当が全行を検証し、発注元へ提示する
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AIの下書きを開き、改訂前・改訂後の文が原文と一致しているかを1行ずつ照合します。ここは省略できません。照合が終わったら、改訂理由の列は空欄のまま、突合表とあわせて発注元の薬事担当へ提示します。未反映の指示があれば、その行を明示して確認を依頼します。改訂理由の記載と規制上の最終判定は発注元が行い、こちらは検証者と検証日を列として残します。この記録が、後から改訂対応の経緯を説明する根拠になります。
- 07
検証記録を案件フォルダに保存する
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差分CSV、突合表、完成した新旧対照表、AIに渡したプロンプトの4点をまとめて保存します。プロンプトを残すのは、後から「どういう条件で差分を出したか」を再現するためです。規制対応の文書では、成果物だけでなく作成過程の記録が求められます。
Sample Data
この事例で使うサンプルデータ
実際に手を動かして試せるよう、サンプルを用意しています。すべて架空のデータです。お客様の実データは一切使用していません。
一式をまとめた形は、業界別レポートに同梱してお渡ししています。
Pitfalls
つまずきやすい点
精度が出ないときにどこを見るか。ここが分かるかどうかで、定着するかが決まります。見出しを開くと、確かめる箇所が読めます。
項番の対応づけに失敗して差分がまとまらない
AIが改訂理由を推測で埋めてしまう
改訂指示との突合を差分の側からだけ行う
社外のAIサービスに未公表の改訂案をそのまま貼る
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次は「AI校正・校閲」を読んでください。この事例は改訂箇所の差分を扱いますが、改訂後の文そのものが表現規定に合っているかは校正の領域です。差分チェックと表現チェックを組み合わせると、規制文書の確認が二重に効きます。
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